吉里吉里人

今が好き♪

1998.1.7

劇作家・小説家にして日本語の名人・おこめの権威でもある井上ひさしの長編小説。
この作家が所蔵していた本が13万冊というからすごい。蔵書の重みで家の床がぬけ、本の雪崩に遭遇したりしている。本は想像以上に重いのです。13万冊といえばおよそ60トン。もし、みなさんが書庫や図書館を新築するときはあらかじめ書架の配置と 蔵書数を建設会社に通知しなければなりません。言葉遊びと奇想天外なストーリー、ジャンルを問わない博識はこのような本好きの膨大な読書量から生まれたに違いない。何千万と入る印税から、一時は毎月2、3百万円も本を買っていたそうだ。郷里、山形県川西町にこの蔵書の寄贈によってできた図書館「遅筆堂文庫」がある。

さて、昭和56年に発売された表題の小説は、東北の一寒村が吉里吉里国として日本から独立するというSF仕立てのコメディである。第2回SF大賞受賞、原稿用紙2500枚におよぶ大作でベストセラーになった。

この小説中に「吉里吉里語四時間・吉日日吉辞典付き」と題する、ズーズー弁の辞書がでてくる。 独立騒ぎにまきこまれた主人公が東北弁を勉強するくだりで読むのだが、理論編、音韻解説、文法などの章からなり、中舌母音・濁音・鼻音の発音のしかた、動詞の変態活用など、延々24頁に渡って挿入されている。地図・知事・土・乳の発音は全て同じでツィヅィと発音するなどの例題のあとに練習問題まであって、読んでいると文字どおり抱腹絶倒、お腹がよじれて、しばし涙が止まらない。吉日日吉辞典は紹介されていないが、もちろん吉は吉里吉里語、日は日本語のことである。続編に期待しよう。

読み出したら止まらない小説自体の面白さとはべつに、文中文ながらこの辞書が数少ない東北弁の解説書として、言語学者の間で高く評価されていることはあまり知られていない。