トリリンガル

今が好き♪

1999.7.1

マルチタレントで自称、山形弁研究家のダニエル・カールさんの講演を聞いた事がある。東北は寒いので手短に話すと言う。良く知られているのは、小学校の国語の教科書にも載っていた、「どさ?」「ゆさ!」(どちらへ?お風呂へ!)であるが、研究によれば、「け!」、「く!」はもっと短く、「食べろ!」(くえ)、「食べる!」(くう)という会話だとのことである。

高3時代に交換留学生として奈良の智弁学園に在席。米国加州の大学在学中も何度か日本に留学している。卒業後、日本に戻り文部省英語指導主事として山形市に赴任、現在は東京に移り、テレビ・著作など多方面で活躍しているのはご存知の通り。初来日では当然、日本のことを調べてきている。それでも、木と紙の家・家で靴を脱ぐこと・床にぺったり座ることに驚いたと言う。何よりビックリしたのは、クラスメート達が英語を全くと言って良いほど話せなかったことだったとか。

資料では、中学校でも高校でも英語の授業が必須とあった。当然、日本の高校生は日常会話ぐらい英語でできるはず、5年も習っていて話せないなどとは信じられなかったそうだ。彼らに英会話を教えるより、自分が日本語を覚えた方が速いと思ったとは、けだし賢い判断であった。

外国人は本当に他国語を覚えるのが速い。ここ十数年、外国人ホステスが働いているクラブやスナックが増え、日本のどの都市へ行っても見られるようになった。多くは東南アジアの女性で、韓国・フィリピン・中国・タイなど。失礼ながら学歴も高い方ではなく、わが国はこうした単純労働に従事する外国人労働者の受入を認めていないから、ほとんどは不法就労。

彼女たちの詮索はともかく、日本語の堪能なことにはおそれいる。自国でほんの1、2ヶ月間日本語を習って来日、余裕があればこちらで日本語学校に行くらしいが、普通は即、仕事。これでもう、酔客には充分。まっかせなさいだ。漢字圏はやや必要性が低いせいか、それほどでもないが、たいていは自国語の他に英語も話せるから、おおむねトリリンガルだ。言語構造や文字の違いで、日本人には外国語を覚えるのが難しいと言うのが定説だが、これはお互いさまで、向うからみたら日本語も相当難しいはず。

英語力判定テストに「TOEFL」というのがある。国際基準の試験で、日本人受験者は世界で最も多いほうだが、成績は最悪の部類。昨年の結果ではとうとうモンゴルにも抜かれ、得点平均はアジア25ヶ国中最下位であったという。これで英語下手は正真正銘、筋金入りであることが証明されたわけだ。

なぜこうも、日本人だけが飛びぬけて外国語音痴なのだろう。

まさか、いくらなんでも我々がそんなに馬鹿なはずがない。「日本語を母国語にすると、他の言葉をおぼえるのが著しく困難になる。」という仮説はどうだろう。日本人が特殊なのではなく、日本語に原因があり、それも文法や文字などではなく、表音構造が特殊なのではないかと思うのだが‥‥。

言い換えると、日本語の発音の単純さが災いしているのである。母音がたったの5種のみ、これを限定され子音に組合わせただけの主要音。子音だけの発音は皆無。わが国に同音異義語が多いは、このように表音の種類が少ないせいだ。世界の言語の中でも表音構造の単純さにおいては日本語が最右翼であるまいか。

日本語に慣れてしまった耳には、他国の何十種類もある母音や子音の発音を捕捉するのは難しい。聴き分けできないものは、発音もできないのは当然。その上、横文字が街に氾濫しているが、せっかく取り込んだ英語などの外来語も、ネイティブの発音を無視して、全て単純発音のカタカナに直して使うから、外国語の学習上、害にこそなれ、なんのたしにもならない。

こんなわけで読み書きは何とかなっても、いかんせん聴き取れない、発音できないで、会話は駄目。覚えられないのはあたりまえなのだ。言わば、我々はなるべくして音痴になってしまったのである。

最後に、前述のカール氏も英語・ドイツ語・山形弁のトリリンガルであることを申し添えておく。