海図

今が好き♪

2000.7.5

船や海に関係する仕事でもしていなければ、海図にはなじみがありません。太平洋の海図は水深、場所によっては海流が描かれておりますが、航行する船舶のどれもが太平洋の水深など全く気にしていないでしょう。大洋上では位置と方位情報が最重要ですが、陸地が見えなければ海図から、これらの情報はほとんど得られません。

海図がもっとも必要とされるのは陸地の見える沿岸部です。海図には船舶が安全で効率よく航行できるよう、陸地との境である海岸線(満潮時の境界)、水深(干潮時の値)、等深線、水面下の障害物(暗岩や沈船)、灯台の位置や灯質(色・点滅周期・光の到達距離)、航路などが詳しく載っています。その他にも、潮汐や海流の変化、灯浮標、洗岩(干潮時現れる岩)、漁礁・魚さく、海底の質(砂・どろ・礫・石・岩などを区別する記号)、陸地の主な目標物などが記載され、見ていて飽きません。

さて、海外から日本に来航する船舶は、公海上では陸地が見えませんから、無線航法の支援下で航海します。現在では旧来のオメガ、デッカ、ロランといった地上波利用の電波航法に替わり、多くの船舶が人工衛星航法、例のGPS利用のカーナビならぬ、海ナビにより自船の位置・方位情報を得て日本近海に入ります。ところが、「地図」で述べたごとく日本地図は世界測地系に対し、本土・島嶼部の全てが460メートル前後の位置の誤差を持っていますから大変です。海図も地図と同じ経緯度原点を基準に日本測地系で作成されています。こんなわけで海の方も、全ての船舶が日本の沿岸部では、公海上の世界測地系から日本測地系の位置情報に切り替えて、入港します。切り替えを忘れて、日本に近づいた場合、海図上の海岸線・水深・灯台・障害物・航路などは全部、図の位置にはありません。このまま航行した結果の悲惨さは、容易に想像がつくでしょう。

初めて入国する外国船の中には、まさか大国日本の海図が、世界標準ではない、などと夢にも思わない船長もいるのです。
切り替えと言う人為操作が必要で、諸外国に影響を与える分、国内だけのカーナビより問題が大きいのです。直ぐにでも海図の世界測地系への改定が急がれます。実際、東京湾など需要の多い海図から順次改定が進められています。

ところが、地図の改定作業は着手されていません。今度は国内で、陸地と海の基準が違うことになってしまいます。地図は建設省国土地理院、海図は運輸省海上保安庁水路部が所轄官庁だと言えば半分納得していただけるでしょうか。
改定には法改正が必要で‥‥現在の海図改定はいわば、もぐりで進められています‥‥、法整備は、海上人命救助に関する条約や船舶への位置識別装置搭載の義務化など、一連の国際法との関連が明確になってからでないとできない。だとか、地図改定が未着手なのは運輸省の準備が遅れているからだ、などの理由で、両省の足並みが揃いません。
ここでも、道路建設・運営のように複数の所轄省庁が関与し、ちぐはぐで無駄な行政が行われているのでしょうか。自国独自の測地系を採用し、誤差の問題を抱えているのは日本だけではありませんが、地図、海図とも早急に世界測地系への移行が必要です。どうもグローバルとは掛け声ばかり、経済規模や技術先進国の割に、わが国は国際化の遅れている国のように思えます。