丑三つ時

今が好き♪

2001.3.28

テレビはBSの洋画をたまに見る程度だが、NHK木曜夜の「お江戸でござる」は家にいればたいていは見ている。江戸大川(隅田川)界隈を舞台にした人情物コメディーで、もちろん時代劇。出演者の持ち味を楽しみながら、屈託なく見られるのが良い。劇が終了すると江戸考証セミナーがあり、漫画家で江戸研究者の杉浦日向子さんを出演者たちが囲んで、江戸風俗の勉強もできるという、いかにもNHK然とした番組だ。
 さて、江戸の文化には独特のものが多くあるが、時刻表示もそのひとつである。暮れ六つの鐘、お江戸日本橋七つ立ち、草木もねむる丑三つ時(うしみつどき)など、良く知られた言葉がある。表示は上の例のごとく、子(ね)の刻、酉(とり)の刻などの十二支を使った表し方と、明け六つ、暮れ六つなど数値表示の2種類の方法が用いられる。特徴的なのは夜明け(日の出)と日没(日の入り)を基準にした不定時法を採用し、季節によって時刻や時間の長さが異なっていることである。

十二支表記では、現在の24時間表示の深夜0時を子の刻とし、以後約2時間(一刻)おきに丑・寅・卯・辰‥‥と数え、午(うま)の刻がお昼の12時、更に未・申‥‥と進んで再び深夜、子の刻となる。ここで注意しなければならないのは、刻とは一日を12分割した時間帯を表し、0時は子の刻の真ん中にあたるということである。

子と午は現在と同じ午前12時、午後12時を表し一年中変らないが、途中の卯と酉はその日の夜明けと日没の時刻を意味し、午前午後の6時をさすのは春分秋分の頃だけである。同時に一刻が2時間相当となるのも春分秋分の日だけで、他は昼夜の長さが違うため一刻の長さが伸縮する。冬の夜間あるいは夏の昼間の一刻は2.5時間、冬の昼・夏の夜の一刻は1.5時間に変動する。半時とか四半時という表現は一刻の半分あるいは4分の1の長さだ。丑三つ時とは丑の時間帯(午前1時~3時)を4等分したうちの3つめのゾーンということで、ほぼ午前2時からの30分間をさすことになる。

数値表示は深夜九つから数え、半刻ごとに九つ半、八つ、八つ半、七つ‥‥と半刻をいれながらダウンカウントし、4つ半を最後に再び正午の九つに戻るという煩雑さ。午後は再び九つ半からの引き算である。明け六つ、暮れ六つは夜明けと日没を表す。したがって七つ立ちとは夜明けの2時間ほど前の出発だ。大陸からの伝来らしいが、なぜこのような数字が使われたのかは良く分っていない。日中はこの時刻で太鼓や鐘をならしていたとのことだから、数が適当であったろうことは想像がつくが。ちなみに、休憩時間を「おやつ」というが、このおやつは明け八つのことで、午後3時の「お三時」に符合し、この時代のなごりである。それにしても、当時の仕事の時給計算はどうしていたのだろうか。