長者番付

柿崎 純一郎

2004.6.1

 

「長者番付」なる高額納税者順位表が5月17日に国税庁から発表された。毎年のことながら、ここに名を連ねた人たちからプライバシーの侵害であるから公表は中止してほしい旨のクレームが出ないのか、と不思議に思う。もっとも、今年1位となったダイエット食品販売会社のオーナーは新聞のインタビューに対し「ムチャクチャにうれしい」と有頂天だったというからプライバシーなど無関係らしい。この表、実は所得税法233条に基づく公示制度で、発表するよう規定されているというから中止を求めてもそう簡単には行かないのも事実だ。例によって、国が国民の個人情報である納税額を公表しているのは我が国ぐらいで、欧米では考えられない。

 今年の上位には健康食品・美容・パチンコ業界経営者が多く、女性の元気さと趣味に乏しい男達がこうした高額納税者を生んだことがわかる。一方、ひと頃目立った土地・株長者・サラ金業者はマイナーになり、歌手など芸能人、作家・スポーツ選手も影をひそめて、デフレ景気を映した結果といえる。たしかに、その年の景気動向やもうけ頭を知るのには便利かも知れないが、これらは別の媒体からでも分ることで長者リストを見せられても、やっかみ半分ながら、だから何なのよ、というのが率直な感想だ。

 

この制度、もともとは税額ではなく所得額を公表し、周囲に所得隠しの金持ちがいることを通報させて報奨金を与えるという脱税防止制度として、戦後まもなく発足したものだそうだ。所得金額のほうが我々にはわかりやすいと思うのだが、途中から税額表示(高額納税者は所得のほぼ37%が税額)となり、趣旨も脱税防止に加えて、高額納税者の名誉をたたえると変って今日まで続いているもの。と言われてもこちらには、不動産や株売買、あるいはサラ金やパチンコでもうけた人の名誉をたたえる気などさらさらない。公表で脱税者があぶり出されたなどと言う話しも聞かないから、今となっては制度の必要性も疑問で、廃止を提言したい。少なくとも国家が全国の税務署と税金を使って行なう事業ではなさそうだ。おおかたの関心は芸能・スポーツ界など著名人の順位ぐらいで、名前を聞いたことも無い長者の順位などどうでもいいはず。であれば、週刊誌ののぞきねたとして、彼らに任せておけば事足りる情報だと思うがどうだろう。