されど母強し--メキシコ印象記--

中野 章

1998.12.8

 

カリブ海に面したユカタン半島の突端カンクン。世界でも有数のリゾートであるカンクンでは内海と外海(カリブ海)を砂嘴が区切っている。
 その長さ20kmに及ぶ砂嘴に100近い大ホテルが軒を連ねている。道路はバスが間断なく行き交っている。
 いずれの国にも乱暴運転手はいるもので、たまたま乗り合わせたバスの運転の乱暴な事。急ブレーキを掛けるやら無理な追越をするやらで乗客はあっちによろよろ、こっちに倒れるやら冷や汗をかきながら握り棒にしがみついている

 

ところがある停留所に停車した途端、一人の子供(5歳くらい)連れのメキシコ人の若いお母さんがつかつかと運転手に近づき、なにやら叫びながらいきなり殴りかかったものである。
 どうやら子供が転倒したことを実力行使で抗議しているようだ。運転手は乗客の手前、くだんの女性に手出しもならず、照れくさそうに防戦一方であった。
 乗客一同の雰囲気は「おかーさん、よくやった」。
 母は強し、メキシコの母はもっと強し。