牡丹園再訪

角田 稔

2006.7.20

4月も末になるとあちこちから牡丹の様子が知らされてくる。
 3年前宍道湖のほとり大根島の牡丹園を訪れたのは5月の中頃であったので、既に芍薬の季節に移っていた。牡丹は4月下旬から5月初旬が見ごろと聞いたので、今回は連休混雑するかもしれないと危ぶみながら出かけた。島には幾つかの牡丹園があるが、由志園は凝った日本式庭園の中に沢山の牡丹を巧に配し、牡丹観賞には最高の場所として知られるようになっており、案の定、駐車場に入る道には自動車の列、やむなく途中にあった臨時駐車場と表示のあった近所の農家の庭に駐車し、其処から歩いた。駐車料は500円であった。
 由志園には大輪の牡丹が咲きそろっていた。上品な香が漂ってくるのに気がついた。顔を近づけてはいちいちにおいを嗅いでみた。天衣と名づけられた真っ白い牡丹の香が清らかで奥深く、この世のものとは思われず、天女を偲ばせた。牡丹には珍しい黄色の花も紹介されていた。背丈ほどもある大輪の牡丹は様々な色をしていた。中国の絵画や、着物に描かれている薄い桃色の花、花びら先の白色へと薄紅のグラジュエーションする花、紫色、薄紫色、淡い色のついた白色、乳白色、透明な白色、牡丹色とはどれかと迷うほどに様々である。深紅などでなく、優しい色合いのふくよかで柔らかな八重咲きこそ牡丹らしい。

由志園前の道路に沿って沢山の農家の売り場が並んでいた。牡丹だけでなく芍薬や他の花苗も売られていた。松江藩の薬草栽培場として開かれた歴史もあり、この土地は土壌が花木の栽培に適するように改善されているのであろう。島で最大の牡丹農家の牡丹園、というよりは牡丹畑あるいは牡丹農場には2万5000株もの牡丹が咲き競っていた。馥郁として豊かな香気が辺りに漂っていた。広い農場に無造作ともいえるくらいに植えられた牡丹の間を縫って歩き、好みの色、好みの香の牡丹を見つけると、其の場所から掘り出して購入出来る。どれも丁度2,30センチの鉢によいくらいの高さである。客の若い女性が紫の牡丹を1株買い求めた所、作業衣姿の若い女性が、若い女の人には甘いのだからと横で小さくつぶやいた。近くに植えてあったラナンキュラスの花株を何株かおまけにつけたのが気に入らなかったらしい。農園主らしき男性が苦笑いしながら、結婚した娘が手伝いに来てくれているんですよと嬉しそうな顔をして言い訳をした。島の女性が牡丹の株を背背負い篭に入れて、近郷近県、遠くは四国辺りまで売り歩いた2,30年前が夢のようとのことであった。掘り出す株の根元を見ていると、如何にもさらさらとした黒土には栄養物がたっぷり含まれているようであった。年に2回春と秋に鶏糞と油粕の肥料を撒くだけで、水遣りなどには余り気は使っておりませんと件の若い女性が言いながら、肥料代は年100万円ほどかかりますねと付け加えた。それくらいで済むのかと意外な感じがしないでもなかった。
 前回ビニールシートで覆われていた高麗人参栽培農地は綺麗に掘り起こされ休眠していた。由志苑の人参製品売り場が拡大され充実していたのはこのせいかもしれない。既に別の広い農地が新しい栽培地になっていた。人参の苗は、数年たって成長し、また掘り起こされる事であろう。