季節の花

角田 稔

2007.9.22

あじさいや あやめの季節である。鬱陶しい梅雨時ほっとさせる落ち着いた美しさが何とも言えない。なかでも好きなのが青紫の あじさいである。紫陽花という字を見るだけで嬉しい。誰がこのような字を作り出したのであろうかと思う。黄色い太陽、赤い夕陽、黒い太陽(日蝕)とあっても、芸術家の胸中にこそあれ青い太陽は存在しない。また、最も太陽を想わせる ひまわり草も向日葵と書いて陽花という字を含まない。紫陽花は、陽と言う文字の持つ明るく輝くイメージと紫の持つ上品で落ち着いた美しさのイメージが見事に重なって、青紫色の明るい花の姿を髣髴とさせるのである。透き通るような清潔な色合いが大写しされたテレビ画面を際立たせる。地味な和服姿の女性がよく似合う。

がくあじさいが元であるというが あじさいは種類が多い。花の色も形も様々である。あの可憐な ゆきのしたと同科の植物とは想像もできない、丈夫な植物でもあるらしい。高さが背丈くらいで叢生し、山肌や野原、屋敷の隅にも元気よく育つ。土壌の酸性度によって花の色も異なってくるといい、アルカリ性土地には桃色の、酸性土地には青紫色の花が咲くという。路傍に見る花色の違いはこのせいであろうか、或いは、種類の違いによるものであろうか。

また、七変化(ななばけ)の異名がある通り、花色が白から青紫、薄紅色と七色に変化することのせいであろうか。鉢植えの がくあじさい を持つ友人が色の変化を楽しんでいるとのことであったので、土壌のせいだけでなさそうでもある。切花にするのは難しいくせに、挿し木はよく定着するのも面白い。
 四片(よひら)の名のある通り、4片の萼が花弁状に育ち、中央にある半球状の花序を囲っている。変り種が次々と作られているらしく、花序が中央に固まっていないのもある。また、箱根湯本のベコニヤ園に飾られていた華やかな淡紅色の新種の萼は4片どころか八重にも見えた。基底は矢張り四片であるが、その上に渦巻状に花びらが重なっているのである。八重に咲いて欲しいと願った古人のことを思い出した。
 季節の花とあってあちこちの紫陽花がテレビで放映される。近隣では鎌倉、高幡不動が有名である。井の頭線沿線の紫陽花も美しい。沿線を飾るのに適した花ではある。残念なのは電車の速度が速すぎてあっという間に通り過ぎてしまう事であろうか。この点、箱根の登山鉄道は少しはゆっくりと楽しめる、また、山中であるせいか白から青、薄紅と色の鮮やかさも印象的である。夜間特別に照明を当てた姿も素晴らしい。
 紫陽花を あじさい、翡翠を かわせみ、と読みながら、花鳥に美しい漢字名を与えた古人の心を思う。