不用品2

角田 稔

2005.9.28

数年前になるが、住宅設備関係の研究をし、改善目標値設定に関係していた友人が、最近の電気製品は省エネ効果が大変に改善されたので、エアコン、電気冷蔵庫などは新製品と切り替えた方がよいと主張していた。電気冷蔵庫やエアコンなどは比較的長期使用され、耐用年数は10数年或いはそれ以上である。頻繁に買い換えるものではない。良い製品というのは性能が良く、元来が長持ちすることであった。冷媒のフロン使用が禁止された時に代替冷媒の選択に一騒ぎがあったくらいで、基本的な仕様は殆ど変らずに緩やかな進化をしていた。

我が家では、昨秋、エアコンの送風機が不快な音を発しだしたのを機に、彼の言葉に従って、修繕をしないで、新型のエアコンに取り替えた。何事によらず「もったいない」という最近有名になってきた言葉の身体に染み付いていることではあったが、省エネ、地球環境に優しいと言うふれこみにも踊らされたわけである。消費者に分かりやすく、その気にさせられるキャッチフレーズではあった。成る程、エアコンについて言えば、今冬驚くほど長時間使用したのに使用電力量は昨年よりも低かった。送風の仕方に工夫が凝らされたらしく、足元も頭部と同じ程度に温かく感じたのが何よりも嬉しかった。部屋全体が万遍にほんわりとと温められているようであった。

このこともあって、冷蔵庫の新品購入の決心は案外と早くついた。調べてみると、カタログ通りとすれば、冷蔵庫の使用電力は10年前の3分の1近くに減少しているとのことであった。もちろんエアコンと同様冷媒はフロンではない。新旧を比較すれば、 10 年も使えば電気代の節約だけで償却できそうな価格であった。大体において、電気機器は年末商戦に合わせて新型を投入する傾向にあるので、大きな値引きの可能な時期は今頃ですよという店員の勧めにも乗って、現在使用中のものとほぼ同じ大きさの冷蔵庫を購入した。

ここまでは大変うまく行ったのであるが、冷蔵庫が搬入された時に問題が生じた。新しいマンションの台所に新品の電気冷蔵庫を運び入れた時には家具や調度品が何も入っていなかった事をすっかりと忘れていたのに気が付いた。

現在は台所への搬入口近くには、ピアノ、食器棚、テーブルが並んでしまっていた。いずれも重量物、老人の力ではどうしょうもない代物である。とりあえず搬入の若者には午後にもう一度来てもらう事にして引き取ってもらい、それから台所を整理、棚の中にある食器類をすべて取り出した。ちょっとした引越し騒ぎであった。午後若者 2 人が棚とテーブルとピアノを移動させ、古い冷蔵庫を厚手敷物に載せて引きずり出し、一旦マンションの廊下に出し、逆の手順で新しい冷蔵庫を運び入れた。若者たちは親切で手際が良かった。あっというほどの短時間に、棚もピアノもテーブルも元の位置に納めてくれた。その後、ゆっくりと、使い慣れた懐かしい食器を大事に棚に戻した。案の定すっかりと整理でき、台所もすっきりとした。周辺が綺麗になったので、面倒くさがることなく、整理整頓に精を出せそうであった。事務所の配置換えを時々やって気分一新を図る効果が分かるような気がした。

 交換されて不用品となったエアコンと電気冷蔵庫のことが気になるが、友人の指摘したように、省エネが明確な目標となってからの技術改良の顕著であることを実感したことになった。最近の状況を見ながら、友人はやれば出来るんだよな、もっと到達目標を厳しく設定すべきであったと笑っていた。もう大分に前になるが、自動車の排ガス規制の目標値設定と目標達成に対する日本企業の積極的な取り組み例のあったことを思い出した。

 一見耐久消費財と思われ、使用年数の長いはずの機器が技術開発の進展によって急速に陳腐化し、使用年数が見掛け上大幅に短縮されたことになる。今回のエアコン、電気冷蔵庫の場合は、技術進化のプロセスが省エネ、省電力に絞って評価出来、早めの機器更新を納得させたが、新製品の特徴を有意義且つ魅力のあるキャッチフレーズで提示する事の重要性を再確認したことにもなった。自動車の場合はさしずめ燃費最小、有毒排ガス零などというのが際立ちそうである。