岩婦温泉

とまりぎ

2010.06.30

11月の末 内房線は岩井駅に5名が降りる。快晴だ。駅からまっすぐの突き当たりにあった武平館というおよそ食事処と思えない名の店で昼を済ませた。駅のほうに戻り小さな公園にある伏姫と八房(犬)の石像を見る。ここ岩井は伝奇小説・南総里見八犬伝ゆかりの地である。仲間のひとりが、子供のころ渋谷区の施設に泊まり海水浴をした記憶があるので行ってみたいという。武平館で地図までいただいて教えてもらった場所をめざす。そこは広い敷地に大きな白い建物があって感慨深げの様子だ。(当時は木造だったとのこと) すぐ前の竹やぶの小道を抜けると岩井海岸に出る。遠い岬の山容や海岸の景色をすこしずつ思い出したようだ。キラキラ光る浅瀬に遊ぶ子供たちはシルエットで一幅の絵のようだった。岩婦(いわぶ)温泉に向かう。とちゅう岩井郷総社の岩井神社と県指定天然記念物の大蘇鉄に立ち寄った。神社の境内では数名のお年寄りが袴姿で静かに弓を引いていた。樹高8mという大蘇鉄は農家らしき一角にあった。夕暮れ近くに岩婦温泉の伏姫荘に着いた。宿は岩婦湖のほとりという案内であったが水は底の一部分にしか無く、鴨らしき鳥が数羽泳いでいた。“農業用水で今は渇水期なので”とは宿の女将の話だ。さっそく温泉に入る。泉質は単純硫黄泉、効能はリウマチ、神経痛、慢性皮膚炎など、色は透明。湯温もほどほどでゆっくりとはいる。夕食は炉端焼き。大きな炭火の囲炉裏を囲み、飲みながら、話しながら焼いて食べることを楽しんだ。食材は魚介、野菜、肉類など盛り沢山。大きな丸ごとの秋刀魚とホイル包みの卵は予想外であった。宿の猫が縁側のガラス越しに興味津々覗いて離れず。宿は貸切りで何気兼ねなく自由気ままにすごした。

翌朝、5時過ぎにひとりがジョギングに出て、そのあとふたりが散策に出た。ジョギング氏は海岸まで行ってきたとケロッとしたもの。散策は山の斜面にある枇杷畑を登ってみたが、ちょうど花が咲きはじめていた。朝風呂に入り身体を温めてから朝食。

 富山(とみさん349.5m)を目指す。きょうもいい天気だ。畑ではもう菜の花や水仙が咲いて盛りだった。富山の表参道の入口にある福満寺(ふくまんじ)から登る。道の途中にも水仙畑があった。富山南峰、観音堂に寄り、里見八犬士終焉の地碑を過ぎると目的地の富山北峰に着く。登りのほとんどが階段で面白みはないが家族連れには安全だ。富山北峰の広場には展望台があり岩井の町、海岸線、遠く房総半島や鋸山などほぼ360度の眺めだ。皇太子・雅子妃殿下の散策、登山記念植樹(*)がされていた。あいにく風が出てきてやや寒くなったので早々に宿のお握りを食べて下る。また階段の連続。舗装路に出てしばらくしてから犬塚と伏姫籠穴を見学した。うっかりすると小説の世界があたかも史跡が如く錯覚する。みちの駅「富楽里とみやま」で水仙の切り花など土産を買い岩井の駅に着いた。ちょうど電車が出たあとだったので、それではとまた武平館に入り打上げの乾杯をした。とまりぎとしては初めての千葉県の旅だった。

(*)

平成11年2月5日散策、登山記念植樹

皇太子殿下     梓

皇太子妃殿下    浜茄子

敬宮愛子内親王殿下 五葉つつじ