川原湯温泉

とまりぎ

2012.06.15

大宮駅で5人が揃い高崎線、吾妻(あがつま)線と乗り継いで川原湯(かわらゆ)温泉駅に降りる。心配した雨も上がっていてホッとする。空気は湿気を帯びている。いきなり高いたかい工事途中の橋脚が目に入る。八ッ場(やんば)ダム(※)建設工事の一端だ。それはさておき吾妻渓谷に向かう。

駅前の国道を5分ほど行くと渓谷入口の案内がありハイキングコースに入る。滝見橋から渓谷を眺めた。紅葉の盛りにはまだ早いがそこそこきれいだ。雨続きであったため流れは濁っており残念。渓谷沿いに白糸の滝や栃洞(とちどう)の滝、千人窟(せんにんくつ)と見て見晴らし台(小蓬莱しょうほうらい)に登る。ここから川原湯温泉駅方面の眺めがいい。あの高い橋脚とそのまたその向こうに完成した橋が見える。また右手に吾妻線のカラフルな電車が通過しシャッターを押す。さらに渓谷沿いに鹿飛(しかとび)橋まで来ると、橋は工事中で戻れとの看板がありやむなく引き返す。少し戻って国道に上がる。国道から渓谷を眺めつつ駅にもどる。

川原湯温泉駅を過ぎほどなく国道から左の道を上がってゆくと温泉街にはいる。今日の宿の前を通りさらに進む。共同浴場の王湯を過ぎると硫黄臭が強く湯けむりをあげている新源泉・足湯に着く。その右手奥には川原湯神社があり参拝する。温泉街も含めてダム湖に沈むがこの神社は移設されるようだ。あたりは薄暗くなってきた。ふたたび温泉街にもどり“やまきぼし旅館”に入る。

家庭的なもてなしがモットーとの宿で女将の心遣いがありがたい。 湯は源泉100%かけ流し、泉質は含硫黄、塩化物、硫酸塩泉(中性低張性高温泉)適応症は神経痛、筋肉痛、関節炎等。露天風呂の”崖湯”からの山間は眺めがよい。崖湯命名は嵐山光三郎氏(作家・エッセイスト)とのこと。

川原湯温泉は、その昔、源頼朝が発見したと言われており、約八百年の歴史を誇る温泉で、草津温泉の上がり湯とも言われ、高温で弱アルカリ性のお肌によいお湯が特徴とのこと。

布団に入ってから、川原湯温泉駅、歩いた渓谷、温泉街を目に浮かべ、また女将から聞いた話などを思い出し、地元の方たちの苦汁を考えると複雑な気持ちとなった。中止された工事も再開されることが決まった。ダム湖を目玉に新生川原湯温泉として繁栄することを祈らずにはいられない。

翌日は高崎にもどり上信電鉄で富岡駅に降り、ユネスコ世界遺産をめざしている富岡製糸場を見学した。

※八ッ場ダム 関東地方に戦後最大の洪水被害をもたらした1947年のカスリーン台風を受けて、52年に利根川支流の吾妻川に建設が計画された。東京、埼玉、群馬など1都5県の治水や利水を目的とし、総事業費は約4600億円。2015年度完成予定だったが、民主党が09年衆院選マニフェストに建設中止を掲げ、政権交代後はダム本体工事が凍結された。(2011年11月7日読売新聞朝刊)